• Home
  • 破滅の戦記 – 巨人の王

破滅の戦記 – 巨人の王

キング・ブロッドが夢を見ることは決して多くない。だが見るときはいつも稲妻の夢だ。

とはいえ不思議なことではない。地平線で荒れ狂うものから、甲高い声を上げるちっぽけな連中が放つものまで、彼はこれまで数え切れないほどの稲妻を目にしてきた。だが彼にとって「稲妻」といえばただひとつの光景、決して取り返しのつかないあの瞬間を指す。自分の片眼を焼き尽くし、神をも殺すほどの圧倒的な力を見せつけられれば、それを忘れることなどできようもない。

その神が父親であったならなおさらだ。

だがブロッドはこの夢を思い起こした時も、それを口にせぬよう心がけていた。王には語らぬべき物事があり、まっとうなガルガントにも語らぬべき物事がある。

だからこそ、口をぽかんと開けて話に聞き入る同族たちを前に物語を語る際、ブロッドはおぼろげな夢の中を走り抜ける稲妻については口にしない。とはいえアズィルの嵐の小神に対して何をしてやるつもりかについては、生々しい言葉で繰り返し語っている。鎚王シグマーの手足をねじ切り、イボだらけの巨大な足の指で踏み潰してやると、その残虐な手口を事細かに描写する一方で、心に刻まれた傷跡については決して語ろうとはしない。シグマーの卑劣な雷撃に打たれ、世界巨神たるベヘマットが崩れ落ちる様を目撃したことは語るものの、そのときに自らの胸の内にこみ上げてきた感情については、何ひとつ口にすることはない。

この話題を深掘りしようとするガルガントがいれば、睨みつけられるか、頭をひっぱたかれるのが関の山だ。ブロッドは彼らに物語を語ってはやるが、自身の魂をさらけ出すことは彼の務めではない。彼のなすべきことは復讐、ただそれだけなのだ。

だが今、別の種類の稲妻が現れた。それは彼の眠りをさいなむ幻影などではない。紛れもない現実だ。邪悪な緑の火花を散らしながら迫りくるその稲妻は、ブロッドをスカブラス・スプロールの汚泥の中へと押し込もうとする害獣兵器の、錆びついた鉄の牙から滴り落ちていた。機械仕掛けの圧力に抗いながら踏ん張るブロッドの脚を、冷たい泥が這い上がっていく。

「さあ来い」稲妻が語りかけてくるようだ。「ベヘマットが眠った場所で眠れ。お前の父が死んだ場所で死ぬのだ」と。

応える代わりにブロッドは咆哮を上げた。歯の隙間からしぶきが飛び散り、彼が格闘している害獣兵器、無数の脚で這い回る巨大な機械の怪物へと降りかかる。スクラップで構成されたその機械の装甲にはネズミ人間たちが群がり、甲高い鳴き声を上げて騒音に加わっていた。ブロッドは歯を食いしばり、全身の筋肉を隆起させて、その金属の肢を力任せに押し留めようとする。眼球が今にも飛び出しそうだ。彼は先祖の神聖なる力を呼び起こそうとするが、その力は現れない。唸り声を上げ、力を求めても、やはりその力は応えてくれない。

牙を剥き、爪を振るうネズミの群れと戦う他のガルガントたちの物音は、すでに遠ざかっていた。ブロッドはふと、彼らの目に自分がどう映っているのかを考えた。力強く見えているだろうか? 王らしく血管を浮き立たせ、鼻を大きく広げた姿だろうか? だがそんなことはどうでもよかった。兵器の口が迫りつつある。顎が激しくきしみながら開き、憎悪に満ちた電撃を吐き出そうとしていた。自分は死ぬかもしれない。

自分を殺すものがあるとすれば、それは稲妻に違いない。

「べへマットの子たるブロッド王、今宵は夢を見なすったかえ?」


声の主はマーグランだった。かの“強者を選ぶ者”は、あたりが闇に包まれ、三本の木を積み上げて作った焚き火が冷たい残り火となるのを待っていた。風が弾けるような彼女の声が、うつらうつらとし始めたブロッドを揺り起こす。遠征隊の他のガルガントたちはすでに眠りについており、宇宙の誕生を思わせる壮大ないびきを響かせていた。

「なんだと?」

「何か夢でも見なすったかえ?」マーグランは野営地の端に立ち、槍に体を預けながら、古びてカビまみれの骨を削り出したパイプをくゆらせている。見た目はおいぼれで、足腰もきしんでいるにもかかわらず、ブロッドがこの沼地の魔女に出会ってから彼女は一度たりとも腰を下ろしていない。まだ二日ほどとはいえ、それでも奇妙なことだった。彼女の足元では、苔に覆われた毛皮を持つ巨獣の一頭が、鼻を鳴らしながらあたりを嗅ぎ回っている。マーグランはその首輪を掴むと、愛情表現のつもりなのか乱暴に引っ張ってみせた。

「いや」ブロッドは嘘をついた。無意識に彼は黒曜石の大棍棒を手で探し、軽く叩いた。

「嘘だね」マーグランは鼻で笑い、煙の輪を吐き出した。煙は夜の闇へと揺らめき消えていく。彼女がブロッドへと向き直ると、その口元には不揃いな歯をのぞかせた嘲笑が浮かんでいた。

「王様は夢を見るもんさ。わしらがこの土地を仕切り、ちびどもが跪いていたころ、王様たちは夢を見ていた」

「それはなによりだ」

「ブロッド、あんたはそれでも王様かえ」彼女はまだにやりと笑っている。ブロッドは顔をしかめた。

「お前に王のなにがわかる」

「言ったろう。あたしゃ王様たちと話したんだよ。古いべへマットの王様だ。嵐の神だのトゲの神だのがのさばる前の、王様にふさわしい本物のガルガントがいたころのね」

「それならわしらはなんだと言うのだ」

「あんたが親分だ。あんたが教えとくれよ」

マーグランが好んで口にするこうした堂々巡りで謎めいた話を聞いていると、ブロッドは頭が痛くなってくる。左耳のあたりでシューッという音がした。彼にいつもまとわりついている赤い肌の小悪魔の一匹が、どうやら何か言いたいことがあるらしい。ブロッドが指でその這い回り屋を押し込むと、そいつは押し潰される寸前で逃げ出した。

立ち上がろうとするとブロッドの膝が痛む。彼は眠りこけるガルガントの群れの間を縫うように歩くが、自分の配下を無造作に踏みつけたりしないよう、意識して注意を払わねばならない。マーグランの寝床の近くでも何体かが眠りについている。彼女に選ばれれば魔術によって強大な力を得られると信じている信奉者たちだ。ブロッドに言わせれば良く言って愚か者、悪く言えば冒涜に近い。いずれマーグランは問題になるかもしれない。だが今のところ……ブロッドにとって「今」というのはシグマーを挽肉に変えてやるまでの、長く、そして復讐心に満ちた時間のことだが、彼女は味方である。

「いにしえの王たちと話したなどというのは嘘だろう、魔女め」ブロッドはそう言い捨てると、足音荒く空き地の端まで歩み寄り、霧に包まれた沼地を見下ろした。「お前の作り話にすぎん」

夜の闇の彼方、スカブラス・スプロールの霧の中に、かすかな緑色の光が瞬いている。もし洞窟でマーグランが語ったことが事実なら、あの深い沼地には鼠人間が潜んでいることになる。彼らはかつて世界巨人の眠りを妨げた際にブロッドによって破壊された武器を漁ろうとしているのだ。いまや奴らは、その神聖な墓所さえも冒涜しようとしている。だが、このスプロールはガルガントの縄張りだ。それゆえブロッドの背後では戦士団が休息を取りつつ、日が昇ればただちに敵を粉砕せんと待ち構えているのである。

「嘘だって?」マーグランは甲高い笑い声を上げた。その響きに、眠っていた数体のガルガントが唸り声を上げ、まるで小さな地滑りのように寝返りを打つ。「さすがは王様だ! あたし自身よりもあたしのことをよく分かってらっしゃる。かの世界巨人でさえあんたの言葉にはぐうの音も出ないだろうさ」

「世界巨人のことも知らぬだろう。戯言はよせ」

「それならいいんだがね。彼がこの事態をどう思ったか、あんたは知りたくないだろうから。そもそも、彼があんたのことを少しでも気にかけていたならの話だが。

「どういう意味だ? 魔女め」

「で、ブロッドの伝説ってのは一体どんなもんだい? ずーっと怒りに任せて、片っ端から敵を叩き潰していくってことかい? それにあんたのそばで戦い、あんたの言うことすべてに聞き入っているうすのろどものことを、あんたはどれくらい気にかけてるんだい? この壮大な復讐の大暴れのなかで、あんたの民ってのはどういうものなんだい?」

それは彼が予期していた答えではなかった。普段なら眉をひそめ、足を踏み鳴らし、怒号を飛ばすブロッドは、しばらくのあいだ何と言えばいいのか言葉に詰まっていた。彼は預言者なのだ。死んだ父の魂の残滓を宿し、その力と呪縛に翻弄される存在。彼は眠りこける群れへと視線を走らせる。絶えず鼻水を垂らしているオドロ。いびきをかきながら折り重なるように眠り、口元には喰った人間たちの残骸をこびりつかせた三つ子、フォグ、マログ、バボグ。そして、彼の言葉ひとつひとつに唸り声を上げて同意し、腕を組んで用心棒のように傍らに立つベグラ……その腹には、彼女が誇らしげに見せつける稲妻の火傷跡が刻まれている。やがて彼はマーグランの方を向く。ドレイクの頭蓋骨で作った兜の下で、残った片目を細めるその顔を、遠くの稲妻が照らし出していた。

「お前は判定者だ、“強者を選ぶ者”よ」

「それこそが私の役目だとも、巨人の王様? あんたのような大男どもを正気に保ち、その血に恥じぬ者にすることさ」マーグランは皮肉な笑みを浮かべたままだったが、その眼差しにはいまや、どこか人を不快にさせる雰囲気が宿っていた。彼女の身体を覆うように並ぶ浮き彫りの顔たちは、ただ睨みつけるだけで、何も語ろうとはしない。

「あんたはここへ戻ってきた。ベヘマットが、自分よりもさらに強大な連中に打ち倒されたこの場所へ。その身に宿る神のごとき力で、あのネズミどもを叩き潰すために。ああ、ああ、それは正しく、まっとうなことだとも。だが大きさとは単に体のデカさだけを指すものじゃない。時には魂に大きさが宿ることもある。あんたもいつか、そのことと向き合わねばならん時が来るだろうね」

ブロッドはその言葉の響きに苛立った。

「どうも気に入らんな」

「だがあんたにもいずれわかるはずだ」そう言うマーグランの邪悪な瞳にきらめきが宿っている。「覚悟しておくことだね。さもなきゃ泥と雑草だけの王になるよ」

しばらくの間、ブロッドはその会話のことを忘れていた。運命を操る魔女のとりとめのない夜の語らいなど、彼にとっては気にかけるほどのことではなかったからだ。それに翌朝の戦いの滑り出しは順調だった。緑の火花へと近づくガルガントたちを隠すかのように、スカブラス・スプロールの濃い霧が立ち込める。やがて彼らは、喚き散らす鼠人間の群れを蹴散らし、岩を投げつけて大砲を真鍮の破片と木っ端微塵に変えながら、喧騒とともにその霧の中から突撃していくのだった。

そして沼地の中心で、金切り声を上げる鼠のテクノ・ウォーロックが稲妻を走らせ、レバーを操作して害獣兵器を起動させる。それは毒ガスの波を噴き上げながら泥沼から立ち上がった。角のような突起から緑色の稲妻が放たれ、ベグラの喉を焼き切る。彼女は背後へと倒れ込み、その衝撃で波が激しく飛散する。それきりだった。彼女は死んだ。理解不能な事態に呆然とし、虚ろな瞳を空に向けたまま。その兵器が恐るべき質量を伴って自分に迫りくるなか、ブロッドはまだ「ガルガントとしてはあまりに無様な死に方だ」と考えていた。彼は間一髪のところで、襲い来るその前肢を両手で受け止めた。

そして稲妻がまさに彼を殺そうとしている。

機械の圧倒的な力に飲み込まれそうになったその瞬間、耳障りな金属音を立てて機体が大きく揺らぐのが見えた。沼の中から、ぬめりを帯びた太い蔓がのたうちながら這い出し、兵器の片脚に絡みつくと、ものすごい力でそれを引き倒したのだ。その隙にブロッドはよろめきながらも後退し、どうにか体勢を立て直すことができた。背後からはマーグランが神秘的な呪文を唱える声が聞こえ、彼女が魔法を紡ぐ中、構えた槍やその傍らにいる獣たちからパチパチと弾けるようなエネルギーが放たれるのを感じ取った。

マーグランはブロッドを救った。だが事態は変わらないかもしれない。彼を追ってここまで来たあのガルガントたちは、動揺し、崩れかかっている。王があわや圧倒されかけたのだ。どうやら彼らにとってそれは看過できないことらしい。害獣兵器は機械的な噴気音を立てながら体勢を立て直すが、その装甲板は剥がれ落ちている。ブロッドには、操縦席にいるあの狂気じみたネズミの姿が目に浮かぶようだった。勝利を確信し、にやりと笑っているその姿が。

「おい!」

ブロッドは砲撃のごとき声量で咆哮する。大地を揺るがすほどの爆発的な音が放たれると、戦場は静まり返る。あの害獣兵器でさえ、驚きと警戒のあまり身を引くような素振りを見せる。ブロッドは傷だらけの胸を拳で叩き、鼻息を荒らげながら一歩前に出る。周囲ではそれを見守るガルガントたちが低い唸り声を上げ、巨体に見合う巨大な足で地面を踏み鳴らし始める。普段のブロッドはそうした周囲の振る舞いを少々鬱陶しく思っていたものだ。だが今、ブロッドは不敵な笑みを浮かべるほどにそれを受け入れている。

「鼠ども、ガルガントの縄張りにのこのこやって来て欲しいものを奪えると思っているのか? 甘いな。お前らのような連中は沼に沈められるのだ。我らが父の骨の影で朽ち果て、忘れ去られるがいい。取るに足らぬ小物らしくな」

その言葉はひとつひとつが緩やかで、低く、明瞭で、そして嘲りに満ちていた。王者の風格が漂っていたと言ってもよい。どうやら害獣兵器はその言葉に不快感を覚えたようだ。機械仕掛けの齧歯類の頭蓋がブロッドの怯まぬ視線を射抜く中、そのプロペラやアンテナに再びエネルギーが奔流となって駆け巡る。

だがキング・ブロッドはすでに動き出していた。あれほどの巨体からは想像もつかないほどの速さで。信奉者たちがその名を唱え、力強いリズムを刻むように足を踏み鳴らす中、彼の中に再び力が、ベヘマットの強大さが満ちあふれていく。マーグランの呪文に操られた触手がふたたび害獣兵器を掴み、沼地深くへと引きずり込む。その衝撃で兵器の集中がわずかに乱れた隙を逃さず、ブロッドは棍棒を両手で構え、流星のごとき勢いで振り下ろした。

一枚岩の棍棒が害獣兵器の鉄の肉体へと叩きつけられ、そのまま突き進む。金属や唸りを上げるモーターがひしゃげ、内部で激しい爆発の連鎖が引き起こされると、噴き出したワープフレイムが悲鳴を上げるスケイヴンの乗員たちを焼き尽くした。ブロッドが武器を引き抜くと、機械の臓物が飛び散る。彼は棍棒を叩きつけ、汚水の奔流を巻き上げた。エンジンが内部からの爆発で引き裂かれる直前、彼はその大きく開いた顎めがけて唾を吐き捨てた。

耳に届く轟音が、単に機械が炎に包まれる音だけではないと気づくまでに、彼は一瞬の時間を要した。ガルガントたちが彼の名を唱えているのだ。これまでにも幾度となく繰り返されてきたことだが、今回はブロッドにとって何かが違って感じられた。あるいは、彼が初めてその声に真剣に耳を傾けただけなのかもしれない。もしその気になれば、やがては心地よく感じられるようになるであろう、そんな響きだった。

「こいつはとんだ光景だね」沼地を歩いてブロッドのかたわらへ向かいながらマーグランが呟く。彼女の視線の先では害獣兵器の残骸が沼へと沈み始めていた。「こりゃあベヘマットだって目を留めたかもしれない」

「ふうむ」とブロッドは唸る。「王らしい振る舞いだったか?」

「ああそうだね。一歩目としちゃあ上出来だ」その言い回しに、ブロッドは思わず笑い声を漏らした。自分でも奇妙に感じるような笑い声だった。彼は爆発の余韻を振り払うと、無事な方の目を上げた。スケイヴンの回収部隊はパニックに陥り、スプロールの泥水をかき分けながら逃げようと右往左往している。一方で興奮したガルガントたちは、すでにその長い歩幅でのそのそと彼らを追って突進し始めていた。だが鼠人間の長たちの中には、尾で部下を打ち据え、鋭い槍を巨獣たちに向けて突き出しながら、どうにか手下どもを統制しようとする者もいた。

「さて大王様」とマーグランは言う。「どうやら仕事はまだ残ってるみたいだね」

「いいだろう」とブロッドは言い、再び両手でメイスを握りしめた。「ここはベヘマットの子らのものだ。そして俺はまだ肩慣らしも済んでないぞ」