アイダルスは滅びに向かいつつある。ストレイク将軍は、追い詰められた獲物に特有の直感を覚えていた。足元でフェロクリートが揺れたが、耕作塔は猛進するティラニッドの凄まじい大群のせいというより、恐怖によって震えているかのようである。食糧を育むために作られた穀物床は地震によって根っこから揺さぶられ、屋根板の波に乗ったかのごとく擦れる音をたてた。
ストレイクの臨時指揮所は地面から十五階の高さに設置され、塔の中枢の近くで外の脅威からは隔離されているが、それでもティラニッドの音を聞くことができた。異種族の鳴き声が防護された聖域にまで届き、その明瞭さはまるで自分の頭の中にいるのかと思うほどである。獣じみた咆哮や遠く響く金切り声のたびに兵士たちが身じろぎしなかったら、彼は自分の気が狂いつつあるのではないかと信じたことだろう。
「実際、そうなるかもしれんな」こめかみを揉みつつ、彼はそう呟いた。
「何かおっしゃいましたか? 閣下」オスパーが尋ねる。彼女の声には、鬱々とするほど馴染みのある憂慮の響きがある。ストレイクは身じろぎした。
「いや、大したことではない。副官よ。老人の小言だ」彼は答える。将軍は無理やりに肩を張り、顎を引き締めた。オスパーや指揮下にある他の兵士たちが彼に希望を求めていることを、ストレイクは痛いほど理解していた。
「承知しました、閣下」彼女は答え、耕作塔が揺れるのに合わせて地図卓にしがみついた。コードに吊り下がった投灯装置が揺れ、酔っ払ったように回転する光と影が、ストレイクの吐き気を催させる方向感覚の乱れをさらにひどくする。帝国防衛軍兵士たちはヴォクス通信機、塔の水道制御装置、お互いの体などを掴んでいる。かれらの見開かれた目が自分に注がれていることを、ストレイクは感じた。声にならぬ質問が聞こえた。何が塔に当たったのか? ティラニッドはついにここまで来たのか? もはや死ぬしかないのか?
振動がおさまると、彼は顔に自信ありげな笑みを貼り付けた。若い頃は、この表情でハンサムでいたずらっぽい見た目になったものだ。他の者たちに巧みな自信を与える、共謀者の笑みであった。今や年老いて疲れ果て、恐怖に満ちているが、これがかつての効果の一片だけでも発揮してくれるよう、彼は祈った。
「これで薄汚い異種族ができる精一杯なら、奴らが灰になった後までこの塔は立ち続けていられるぞ。我々で、そうしようじゃないか!」将軍は吠える。「皇帝陛下の御加護あれ!」
「皇帝陛下の御加護あれ」実際の熱意であり訓練によって培われた反射でもある、声を合わせた答えが返ってくる。この言葉を信じきれずにいる者も少しはいたが、ともあれ聞き慣れた唱和が兵士たちを少し落ち着かせた。
「陛下がお守りくださる。それを成し遂げるためには、我々が手をお貸しせねば。任務に戻ろうではないか」どうにか愛想を作りながら、ストレイクは言った。「ゴスパード、第十八中隊の最新状況を出せ。レンウィック、ウルソン中尉と連絡を確立し、ノースウィールド大放牧地からの避難進捗を把握しろ。ボルスレン、ハロウ渓谷からの機甲部隊の増援はいつ頃到着しそうか確認しろ。残りは武器の完全点検と祈祷をすませろ。必要な時にすぐ動けるように」

行動こそ、勇気の友である。兵士たちが急いで命令に取り掛かる中、ストレイクは自分に言い聞かせた。まだ勝てる見込みのある戦いの中にいるのだと、皆に信じさせる他なかったのだ。それが自分でも信じられたら……
「閣下?」オスパーが声をかける。自分の考えがまたしてもさまよい初めていたことに、ストレイクは罪悪感を覚えた。五分だけでいい、静寂が得られたら。あるいは数時間ゆっくりと眠らせてもらえたら。しかし、望むだけで戦艦が出てくるなら、帝国が異種族や異端者に襲われているわけもないというものだ。
「ああ、副官。ひと通りの——」
「閣下! 星辰感応至聖所からの緊急連絡です!」
ヴォクス通信士の声はほとんど叫びのようだった。その中には、ストレイクの疲れた脳では瞬時に言い表しがたい、聞き慣れぬ音が込められている。 楽観? あるいは興奮であろうか?
ストレイクとオスパーはいぶかしげな視線を交わした。
「よし、聞こう」そう命じる。彼は考えた、間違いなく、興奮だと。ヴォクス通信士の目は、興奮で明るく輝いていたのだ。
「閣下。上級星辰感応官クァテンベより、救難要請に対して惑星外からの返答があったとの報告です」
「生命ある玉座よ……」オスパーが息を呑む。
「誰からだ?」 ストレイクが尋ねる。
「上級星辰感応官クァテンベは謝罪を伝えるよう言ってきました。超常空間の影があり、深刻なサイキック的雑音と感応官の人的損害が、理解を妨げているとのことです。上級星辰感応官コルネリウスからの僅かな意識伝達が解読できたのみであると」
ストレイクは答えを期待してヴォクス通信士を見た。感応官の名などは問題ではない。ではこの若き兵士は、何にそれほど興奮しているのだ?
「閣下。解読された意識伝達は、直ちに、増援、タイタス、そして……ウルトラマリーンです」
指揮所に稲妻のごとき衝撃が駆け抜けた。『タイタス』という名は先の『コルネリウス』と同じように聞き覚えのないものだが、ウルトラマリーンの名がほんの一言出ただけで、ストレイク将軍ができるどのような演説よりも士気を高めてくれた。玉座よ——彼は思考する。どれだけ長い睡眠時間がもらえるよりも良い知らせだ。
「ウルトラマリーンが——」
「助かったぞ、俺たち——」
「皇帝陛下に感謝を。皇帝陛下に——」
「静まれ!」ストレイクは命じる。今回は、笑顔を浮かべるのに努力はいらなかった。疲弊し必死となった兵士たちが即座に静まったのは、賞賛すべきことだろう。
「望み得るよりもはるかに良い知らせだ。だが、神帝陛下のスペースマリーン自身がこのアイダルスまで出向いてくださるというのに、到着前に我々が全員喰われていたら立つ瀬がないぞ! 落ち着いて、命令を遂行せよ。このタイタス殿とウルトラマリーンが来た時には、感心されるような姿を見せようではないか!」
今回上がった同意の叫びには、本当の力が込められていた。
「皇帝陛下の御加護あれ!」
「皇帝陛下の御加護あれ」腹の中に希望の火が燃えるのを感じながら、ストレイク将軍が応じる。「そして陛下のウルトラマリーンが、我らの守りとならんことを!」












